【トランプのアメリカ】トランプノミクスの勝者と敗者 新興国に貸し込む日本の銀行の運

トランプが大統領となったことで日本にはどのような影響が出てくるのでしょうか。色々なリスクが心配されていましたが、実際に形となって変化がないとまだわかりませんね。沖縄に在沖している米英が撤退するという話も出ていますが、本当なのでしょうか。選挙中の演説が実際に実行されるかどうかは確実ではないので、まだまだ分かりませんが、中には、アメリカでは別の国へ移住を考えている国民もいるようです。本当に嫌われ者の大統領が登場してしまいました。もともとビジネスマンなので感情的でなく、ビジネス志向の働きをしてくれると思うのですが、今後の彼の行動に注目が集まります。

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米大統領選に共和党候補ドナルド・トランプ(70)が勝利してから「ブラックジョーク」のようなニュースが続いています。米国が自由貿易から保護主義に、介入主義から孤立主義に舵を切れば、これまでの世界の常識が180度変わってしまいます。

アナトール・カレツキー氏(筆者撮影)
英国の著名経済コラムニストで現在は香港に本拠地を置く金融サービス会社Gavekal Dragonomics首席コラムニストのアナトール・カレツキー共同議長が11日、ロンドンで講演しました。選挙期間中、トランプが人種差別発言や性差別発言を繰り返したことから、米国は自由、倫理、文化、価値をめぐり真っ二つに割れています。
カレツキー氏は道徳的価値を度外視し、純粋に経済面からトランプの唱えている経済政策によるプラス、マイナスを分析しました。目から鱗が落ちる刺激的な講演だったので、その内容を講演と質疑、彼のコラムをもとに要約してみました。
利点(1)経済成長と財政出動による景気刺激
トランプ大統領の最初の2年間は、オバマ大統領の8年間の平均値より速いスピードで米国経済は成長します(筆者注:トランプの政権公約では2500万人の雇用創出、年平均3.5%の経済成長)。トランプ大統領は2020年の次期大統領選に向けて米国経済が後退するのを必死で避けるでしょう。
インフラや国防、そしておそらく医療への財政出動と減税によって成長は加速されます。実体経済が活発化しますが、それよりインフレによって名目成長率が伸びるでしょう。いずれにせよ企業の営業収益にはプラスです。
利点(2)税制改革
米国の税制改革は数年前に行われるべきでした。利益の本国送金を一部免税にすることが最終的に可能になります。大幅な財政負担によって法人税の引き下げ(筆者注:トランプの政権公約では法人税率を35%から15%に引き下げ)が実施されるでしょう。大型の財政出動は次の1、2年は急成長をもたらしますが、2018年以降、ハイインフレを引き起こします。
利点(3)規制撤廃
環境とエネルギーに関する規制は確実に弱められますが、労働規制に関するトランプの態度ははっきりしません。トランプ政権が労働規制を強化し、カリフォルニア州のように大胆に最低賃金を上げない限り、トランプの公約である工場労働者に対する賃上げを実現するのは難しいでしょう。トランプがこの公約を破ると激しい反動に見舞われるでしょう。
利点(4)地政学
トランプ大統領最大のサプライズ効果は東欧や中東の状況が良くなるか、少なくとも安定することです。民主化運動を支援するオバマ時代のリベラル介入主義に終止符を打ち、ロシアと中国と過渡的な関係を構築することで「影響力の境界」を設定し、世界で最も問題を抱えた地域の安定化を容易にする道を見つけるべきです。
ウクライナ、シリア、イランでロシアに譲歩し、イスラム過激派のテロ対策での協力、中東欧の北大西洋条約機構(NATO)加盟国への不干渉を取り付けることが可能になります。
中国は軍事衝突に発展しないことや米国の保護主義を受け入れることを条件にアジア諸国との領有権争いを処理することを黙認される可能性があります。日本政府にとっては頭の痛い展開になりそうです。
イスラエル、イラン、サウジアラビアとの関係が地政学上、最大の不確実性をもたらします。
欠点(1)世界貿易
米国はフーバー大統領が1930年にスムート・ホーリー法を導入して以来、初めて保護主義を唱える大統領を迎えます。トランプは選挙期間中、中国からの輸入品に45%、メキシコから輸入している自動車に35%の関税をかけると約束しましたが、完全に実施することはあり得ないでしょう。
もしトランプが公約である貿易制限を実施しなければ、危険な反動に遭ってしまいます。トランプの発言を見ると、自由貿易は米国にとってマイナスのゲームだと信じ込んでいます。関税の適用が議会の承認を必要としないのなら、米国の貿易政策が大きく変わらないと仮定するのは理解し難いことです。
米国経済の哲学が自由貿易から保護主義に転換されるのなら、1980年代前半からのグローバル経済のメカニズム、いや第二次大戦後の経済秩序が変わることになるでしょう。
欠点(2)金融政策、インフレ、長期金利
トランプが大型の減税と財政出動を行うなら、今でも完全雇用に近い経済は景気刺激と急成長によって、連邦準備制度(FRB)の金融引き締めか、それともインフレという結果を招くでしょう。高インフレと短期金利の上昇のバランスを予測するのは不可能です。しかし長期金利はどんなことがあっても上昇するのは確実です。
貿易保護主義と賃上げ、不法移民の規制による金利上昇もしくはインフレは避けられないでしょう。FRBがインフレを防止するために十分に早く金融引き締めに動くか否かにかかわらず、それは金利の上昇と、米国債への投資家が大きな損失を被ることを意味します。
欠点(3)米ドル
急激に金融が引き締められ、長期金利が上昇し、米国経済が予想以上に速く成長すると、米ドルはおそらく再び強くなるでしょう。新興国市場での構造的な米ドルの売り持ちポジションは強制的に清算されます。米国経済の急成長、ドル高、新興国市場の金融問題はレーガン大統領のレーガノミクスの最初の4年間に起きたドル不足を思い起こさせるでしょう。
欠点(4)新興国市場
米ドルの収縮と保護主義によって新興国の経済は問題を抱えます。新興国の会社に米ドルを貸し込んでいる日本の銀行は打撃を受ける可能性があります。
欠点(5)欧州
トランプの勝利によって欧州で欧州連合(EU)や単一通貨ユーロの解体を叫ぶポピュリズム政党が勢いを増す可能性が強まりました。12月のイタリア憲法改正国民投票、来年3月のオランダ総選挙、5月のフランス大統領選、9月のドイツ総選挙と欧州は正念場を迎えます。
それぞれの結果次第では2010~13年の欧州債務危機を上回る規模の危機に見舞われる恐れがあります。ユーロ危機は欧州中央銀行(ECB)の金融緩和で抑えることができましたが、政治危機には手の打ちようがありません。
筆者の見立て
カレツキーの講演をもとに筆者なりに日本への影響を考えてみました。トランプ政権のスタートはドル高を伴い、安倍晋三首相の経済政策アベノミクスにはプラスに働く可能性があります。がしかし、円安になって米国の対日貿易赤字が膨らむと批判の矛先は日本に向けられる恐れがあります。
自分でドル高の種をまきながら、他国の通貨安への批判を強めていく可能性が強いトランプノミクスのマッチポンプに振り回されないよう、日系企業はメキシコより米国内での現地生産に力を入れる必要に迫られるかもしれません。
ロシアのプーチン大統領はトランプ大統領、中国の習近平国家主席と「新ヤルタ会談」を開き、世界新秩序について話し合いをする野望を抱いています。南シナ海や東シナ海の中国の海洋権益についてトランプが中国に自由度を与えると、ここぞとばかりに沖縄・尖閣諸島をめぐる中国の圧力が再び増してくる可能性があります。
日本の金融機関は低成長、マイナス金利の国内では十分な収益を上げることができないため、新興国市場に貸し込んでいます。トランプショックから逃げ遅れると大やけどを負う恐れがあります。
安倍首相は17日、ニューヨークでトランプと会談する見通しです。最大のポイントは日米同盟の防衛義務が尖閣に適用されるかどうかですが、日本としては北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対する共同防衛の貢献、中国の核ミサイル原子力潜水艦が南シナ海や太平洋に自由に展開できるようになれば米国の安全保障にも大きな影響を与えることを理解してもらうのが先決になるでしょう。
アベノミクスの主砲である日銀の異次元緩和についてはおそらく理解を得るのが難しくなるのではないでしょうか。日本が何をしてもらいたいかではなく、米国に対してどんな貢献ができるのかを確認するのが新たな日米関係のスタートラインになるでしょう。
安倍首相は共和党のレーガン大統領と良好な関係を築いた中曽根康弘首相の「ロン・ヤス」時代に学ぶ必要があります。自由貿易の先頭ランナーだった米国が保護主義に大転換し、オバマ政権時から兆候は出ていたとは言うものの、米国が世界の警察官役を完全に止めてしまうというのだから大変です。
民主党候補ヒラリー・クリントンと親しかった安倍首相の立場は非常に難しくなったと言えます。17日のトランプ・安倍会談は新たな日米同盟の試金石となるのは必至です。

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