夫婦6組のうち1組が“治療”経験あり… 「もう無理かもしれない」「でも、あきらめられない…」

確かに不妊治療は一体いつまで続けていいものなのか判断基準が分かりません。高齢で出産する例も後を絶たないので、自分もまだいけるんじゃないか、これ以上続けても意味がないのでは?色々な思いが頭の中によぎっていったり来たりしていることでしょう。継続をあきらめる原因になっている一つとして、不妊治療の費用が高額なことも挙げられます。毎月決まった日付に病院へ行って、受精したかどうかの検査を受ける、同じことの繰り返しですが、確実に家計に打撃を与える通院となることでしょう。

image

「ねえ、1人っ子がいいの?」

東京都の派遣社員、中村良子さん(44)=仮名=は不妊治療がうまくいかなかったとき、生後2カ月で亡くなった長男の崇ちゃん=同=にこう話しかける。リビングに置かれた白い子供用の小さなテーブル。崇ちゃんの写真やおもちゃがたくさん並んでいる。

35歳で1歳年下の会社員、隆行さん=同=と結婚。子供は「自然に授かるもの」と思っていたが、なかなかできなかった。37歳のときに不妊専門クリニックで治療を開始。体外受精で妊娠し、平成23年1月に出産した。40歳だった。待望のわが子は心臓に重い病を抱えていたが、手術が成功。回復に向かっていると思われたが一転、容体が急変し、一度も家に連れて帰れないまま、亡くなった。腕に抱いたときの温かさや笑顔…。崇ちゃんへの思いは募った。

「もう一度、赤ちゃんがほしい」。3カ月後、治療を再開した。

ホルモン剤で卵巣を刺激して卵子を育て採卵する。5、6個採れても、子宮に移植可能な受精卵になるものは少ない。また、移植をしてもなかなか着床しない。結果が出なくても「おいしいものを食べに行こう」と励ましてくれる隆行さん。焦りは募った。「この先、難しいかもしれませんね」。医師の言葉に何度も治療をやめようと思った。だが、「一度は出産できたんだから、次こそは」という思いが消えない。43歳で妊娠反応が出たが、8週で流産した。

「みんな子供がいるのに、なんで私だけ?」。妊婦を見るのがつらくなり、引きこもりがちになった。採卵は15回以上。途中で回数を数えなくなった。体外受精にかかる費用は1回当たり50万円ほど。治療総額は1000万円近く。「老後はどうなっちゃうんだろう…」。不安に胸が波立つ。「治療をしているとあっという間に時が過ぎる。暗いトンネルの中にいるみたい」

新生児の21人に1人が体外受精で生まれ、不妊治療を経験する夫婦は6組に1組といわれる。治療をしても、なかなか望みがかなわない場合、「やめ時」が大きな問題となる。

「今ちょうど、排卵が済んだところですね。月経が来たら、お薬で卵巣の機能を整えましょう」

8月中旬、都内の大学病院の不妊治療外来。大橋明美さん(43)=仮名=は、医師の言葉に、静かにうなずいた。大橋さんは、39歳のときに結婚。41歳から不妊治療を始めた。今年、6月に体外受精の末に初めて妊娠。7週目で心拍を確認し、「これで安心できた」と思ったが、その翌週の診察では「赤ちゃんの心拍が確認できません」と医師から告げられた。7月下旬には、流産のため掻爬(そうは)手術を受けた。

「もう妊娠は無理かもしれない」。手術のあと、だんだんと不安が募った。治療のやめ時について初めて、真剣に考えた。ただ、子供好きの夫のためにも、赤ちゃんが欲しいという思いが勝った。この秋に再び採卵し、また、体外受精を行なう予定だ。大橋さんは「夫との間に子供が欲しい。今は治療を続けることが私にとって、最良の選択なんです」。

晩婚化に伴い、不妊治療を受ける女性の年齢は高くなっており、40歳でピークを迎える。しかし、高度な生殖補助医療を持ってしても、加齢とともに妊娠しづらくなるのが現実だ。日本産科婦人科学会によると、平成26年に生殖補助医療を受けた女性で出産した人の割合は30歳で20・6%だが、40歳で8・8%、45歳で0・8%と急降下する。一方、流産率は30歳が17・1%なのに対し、40歳で35・2%、45歳で66・1%と急上昇する。不妊治療に詳しい生殖心理カウンセラーの小倉智子さんは言う。

「確率的に難しいと分かってはいても、次はできるかもしれない、と期待してしまう。やめたくてもやめられないという人が増えているのです」

不妊治療は、性交のタイミング指導から子宮に精子を注入する人工授精、体外で卵子と精子を受精させる体外受精へと進むことが多く、特に体外受精には多額の費用が必要。NPO法人「Fine(ファイン)」の調査(平成25年)によると、治療費の総額は「100万~200万円未満」が24・8%で最多。「10万~50万円未満」(18・8%)、「50万~100万円未満」(17・6%)と続き、「500万円以上」も4・6%いた。

シェアする

フォローする